益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

執着ということ

早朝、父から電話。
何か?と驚く。
「のど飴と競馬ブックを買って来い!」とのこと。
のど飴はともかく競馬ブックには呆れる。
病棟からこの週末、競馬をやろうという魂胆らしい。
酒もタバコもきっぱりと断った父が
唯一、やめられなかったギャンブル。
顰蹙を買いそうだが、許したい気持ちである。
人間、何某かへの執着なくしては
生きられないのだと思う。
言い換えれば、生臭く己の生に執着する限り
人間は死なないのだと‥。

昼過ぎに、甥を連れて見舞う。
もちろん競馬ブックを携えてである。

 冬蜂の死に所なく歩きけり  村上鬼城