益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

二十五年前

二十五年、長い年月だ。
横田めぐみさんが拉致されて
今日で二十五年になるという。
二十五年前、私は二十三歳だった。
詩も俳句も恋も捨て
定職もなく金もなく
大東京を流浪していた頃だ。
二十五歳で、或る女性と巡り合い
同棲し結婚する前の
限りなく孤独で荒んでいた時期である。
しかし、私は私を不幸だ、などとは
決して思わなかった。
空腹でも自由があり若さがあり
家が無くても
安全で優しい街があったからである。

その頃、横田めぐみさんは
北鮮に拉致された訳である。
絶対的な不幸。
それは、絶対的な不幸なのである。

貧しさも病苦も孤独も
自らが生れた国においては
なんとか耐えられるものではないのかと
私は思っている。
めぐみさんは
凶悪な国家権力によって
その人生を
根底から捻じ曲げられたのである。
北鮮での暮らしに
ささやかな幸福を見出していたと
仮定しても
めぐみさんのその絶対的な不幸は
変らないのである。

僅か十三歳の少女に
その絶対的な不幸を強いた、
北鮮という「テロリスト国家」を
我々は絶対に許してはならない。
我々と価値観を共有する、
世界の、多くの良識ある国々も
決してそんな蛮行を許すことはないのであるから。

 新宿を海と思へばくらげかな  田畑益弘