牛乳神話

「タバコをやめて牛乳を飲みなさいっ。」と医者に言われたことがある。
以来、タバコをやめずに牛乳を毎日飲んでいる。
亡くなった母は、生前「骨粗しょう症」の予防にと奨められ
家族で一番牛乳を飲む人だった。
母の死後、酒もタバコもきっぱりと断った老い父だが、
牛乳を飲むことだけは唯一の日課として続けている。
・・このように牛乳は「健康食品の代名詞」、「体のために良いものの代表」
として我が家で絶大な信頼を得ていたの「だった」。
これは何も我が家に限った話ではあるまい。
「牛乳は体に良い。」「牛乳を飲んでいれば間違いない。」というのは
健康志向の今日、疑いようのない常識で「あった」はずだ。

雪印乳業の罪深さは、国民のそんな牛乳への全幅の信頼を
根底から揺るがしたことにあるだろう。
「業界最大手のやっていることだから、他のメーカーもやっているはず」、と
誰もが推測する。
雪印乳業への信用とともに、
牛乳それ自体への信用も今や地に落ちてしまったのである。

私は今度、牛乳を奨めた医者に言ってやろうと思っている。
「牛乳をやめてタバコを喫いなさいっ。」、と。

　一滴もなき香水壜の強き匂ひ　　内藤吐天