SFと現実と
もう三十年も前になろうか?
小松左京さんの「日本沈没」という小説・映画が
大ヒットしたことがあった。
私は小説を読まないで映画だけ見た。
古いことなので詳しいストーリーはほとんど忘れてしまったが
結末とその映像だけは、なぜかはっきりと覚えている。
確か、日本という故郷を、物理的に喪失した
日本民族が、中国をはじめ世界各地に移住するというエンディング。
不思議なことに、その終章の映像だけは今でも鮮やかに
蘇ってくるのである。
三宅島の全島民の避難の模様が
繰り返しニュースで報じられる。
SF映画とはスケールが全然違うが、こちらは現実だ。
故郷を否応なしに離れねばならぬ悲しみと悔しさは
当事者でないと分からないことだろう。
しかし、それは、映像を眺めているだけの我々にとっても
決して他人事ではないのではないだろうか?
同じ火山地震列島に住む人間として
せめてその切なさを共有したいと思う。
あの荒唐無稽な映画の終りに味わった、
日本人としての切なさ。
それを今、現実に体験している人々がいる。
九月の地蹠(あうら)ぴつたり生きて立つ 橋本多佳子