益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

早すぎる開花・・・

春の代表的な季語に「おぼろ・朧」がある。
大抵は朧夜や朧月として、
春の夜のおぼろなる風景、風情に用いるのだが、
「鐘朧」などとして音に、また「朝朧」などと時間にとらわれず
使うこともある。つまりそれは、
春らしく、暖かく、霞がかかったような風景、景物、気分を
まさにぼんやりと表現する美しい季語なのである。
今日は一日中が、まさにそんな朧だった。
晴れ渡っているのに、ほの白く霞がかかったような青空。
暑からず寒からず、ついウトウトとまどろんでしまいそうな
春日和だった。

そんな陽気の中、
近所の法金剛院の枝垂桜が早くも開花した。
毎年わが家の近傍で真っ先に咲く古木だが、
それにしても今年は早い。
お彼岸前に咲いたのは私の記憶では初めてである。
いつもは待ち焦がれられて咲く桜であるが、
今年は随分あっさりと、気の早いことである。
なにか拍子抜けしたというか、有り難味が少ないように
思われてならないのだが・・・。

 花を見しまなうら白く睡るかな  草間時彦