益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

ナルの存在

わが家の楓大樹の若緑が美しい。
一昨日、ナルの遺骸はその樹の傍らに葬った。
亡き父が大切にしていた水石や化石を
墓標として置いた。
人間の墓より余程立派である。
遺骸は白布にねんごろに包んだ。
火葬にして小さな骨箱を届けてくれる業者もあるが、
そんな気は、もとより毛頭無かった。
亡骸は、ナルの愛したわが家の内に
埋めてやろうと、当初より考えていた。

我が家にはまだ、ミーとチコという二匹の猫がいる。
ミーは三歳、チコは二歳、
どちらも頗る元気である。
その二匹が、ナルの墓に恐る恐る近づき
しきりに匂いを嗅いでいることがある。
ボスの不在が不思議なのであろう?
ボスの死がまだまだ理解できないのであろう?
土に埋もれてナルは何をしているのか、と
考えているのかも知れぬ?
ミーとチコのそんなあどけない姿を見るのが
とても辛い。
ナルの存在はミーとチコにとっても
余りに大きかったのである。

 生涯は一度落花はしきりなり  野見山朱鳥