益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

風鈴

連日の猛暑。このところ毎日、真夏日である。
ほとんど一日中、冷房の入れっぱなしだ。冷房がなければ生きられない。
冷房のなかった昔はどうしていたのだろうと?と不思議に思えてくるほどだ。
扇風機しかなかった時代。
玄関から奥の間まで、扉も戸も障子も窓も開け放っていた時代。
打ち水が涼風を運んでくれた時代。
冷房などなくても、それなりに快適な夏の暮らしがあった。

窓がサッシになり戸がドアになり、家屋の機密性が増した。
地道が舗装され自動車が飛躍的に増えた。
どの家にもあった庭や空き地がなくなった。
家の中に電化製品が異常に増えた。

我々は自ら熱を出し自らその熱を閉じ込めているのではないのかと思う。
そしてその過剰な熱を冷房によって外に「捨てて」いるわけだ。
現在も私の部屋ではテレビとパソコンと冷房が
そんな「イタチごっこ」を演じている。
もう引き返すことはできないのだけれど・・。

夏の季語の「風鈴」も「簾」も「打ち水」も
今や死語になりゆこうとしている。
私の部屋ではいつか戯れに吊るした風鈴が時折
冷房の風にいやいや音をたてている。

 風鈴のもつるるほどに涼しけれ  中村汀女