益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

「少年」

少年の凶悪犯罪にはもう驚かなくなっていた。
事件への衝撃が覚めやらぬうちに別の事件が続発する。
日常化する衝撃にこちらの感覚もマヒしてしまう。
しかし今日報じられた、
十五歳少年の凶行には驚きを新たにする。
一家皆殺しを企むような憎悪が
高1の生徒のどこに潜んでいたのか?
ただ唖然とし、言葉を失うばかりである。
今のところ「覗き見への家人の注意」が動機だと云う。
その通りだとすれば、
<動機の単純さとその計画的な残虐性の落差を
どう解釈すればよいのか?>という
近頃の少年犯罪に共通する大きな疑問が
ここでも繰り返されるわけである。

殺人を経験したかった、と云った「少年」。
母親に迷惑を掛けたくないと、その母親を撲殺した「少年」。
今回もまた「少年」の
得体の知れぬ恐ろしさだけを残して
事件は過ぎ去ってゆくのだろうか?
折しも高校野球たけなわの、この夏の日に。

 晩夏光バットの函に詩を誌す  中村草田男