益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

亡母の故里へ

お盆。約二十数年ぶりに亡母の故里を訪ねた。
幼い頃は毎年母に連れられて行っていたものだ。
母方の祖父母が亡くなり、代替わりするとともに
自ずと疎遠になっていた。更に
三年前に母が亡くなりますます行きづらくなっていたのだ。
母の死により、私にとっては
従兄弟夫婦の住む家に過ぎなくなってしまったからである。

丹波山地をトンネルが縦貫し、かつての「田舎」は
京都市からわずか一時間足らずの「郊外」になっていた。
街道も農道も水田を削って拡幅され、舗装道路になっていた。
コンビニやスーパーができていた。
おはぐろとんぼがのんびりと翔んでいた小川は
暗渠になって、舗装路の下を流れていた。
藁葺き屋根の家はもうなかった。
どの家の駐車場にも三、四台の自家用車が置かれていた。
・・・そこはもう少年期の私が眼を輝かせた、
自然豊かな「母の故里」ではなかった。
嘗て鳶が長閑に旋回を繰り返していた山国の空を見上げると
色とりどりのパラグライダーが飛んでいるのだった。

 うちのやうなよそのやうなお盆の月夜  種田山頭火