益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

愛しの猫たち、その後

父の死後、三匹の猫たちを心配して
メールを下さる方が多い。
「愛しの猫たち」の飼い主が
私ではなく父であることを
皆さん御存知だからである。
現況を記しておく。

約三歳のミー、約二歳のチコは
父の死を理解していないように見える。
父生前と変ることなくよく食べよく眠り
所狭しと暴れ回っている。
問題は最年長、約十歳のナル。
ナルははっきりと父の死を認識しているようなのだ。
その日、ナルは父の遺体にしがみついて
離れようとしなかった。
葬儀屋が深夜来て、ドライアイスを遺体に抱かせるまで
ナルはそうしていた。
祖母の時も、母の時も
やはりナルが遺体にしがみついていたのを思い出す。
この猫は実に我が家の三人の死に遭遇したのである。
祖母も母も大変な猫好き、とてもナルを
可愛がっていた。もちろん父も。
ナルは自分をこよなく愛してくれた、
三人の主人を喪ったわけだ。
「死の意味」を知っているナルの「こころ」を思うと
私は泪を禁じ得ない。
もうこれ以上ナルを悲しませるわけにはゆかない。

 捨て仔猫少女去りもうあてもなし  加藤楸邨