益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

卯の花腐し

久方ぶりの雨。
緊張した天の気が緩んだように
きょう未明から今尚降り続いている。
自転車通勤には辛かったが
一雨欲しかったのも確かだ。

この頃の長雨を俳諧で「卯の花腐し」と言う。
卯の花を腐らせる雨、の意というが
万葉集を読み誤った後世の歌人の造語のようだ。
そんな雨は昔から降るわけがない。
しかし、俳句の世界では現在も
梅雨前の長雨として立派に降っているのだ。
ま、そんな謂れはともかく私はこの季語が好きである。
七音で扱い難いが、頽廃的で艶な語感に惹かれるのだ。
次に「うのはなくだし」の名句と思しき作品を
数句掲げておく。

 卯の花腐し怒れば生きた言葉生る   能村登四郎
 ひと日臥し卯の花腐し美しや     橋本多佳子
 卯の花腐しきぬぎぬを知りつくしけり 加藤かけい
 卯の花腐し君出棺の時と思ふ     石田波郷