益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

ナルの思い出・?

ナルは実に人なつっこい猫だった。
見知らぬ人に撫でられても抱かれても
なされるがままに身を委ねていた。
その余りの「人間への信頼」を危ぶむほどだった。
「悪い奴もいるんだよ・・・。」
私は何度もナルに言い聞かせていた。
しかし、それは杞憂だった。
ナルは「危ない奴」と「優しい人」を本能的に見分けていたようだ。
ナルが人間に危害を加えられたことは一度たりともなかった。

ナルは同じ猫や他の動物に対しては
残酷なまでに厳しい猫だった。
縄張りに侵入する野良猫は完膚なきまでに痛めつけられた。
犬も蛇も蜥蜴も鳥たちも同じ。
ナルは我々が制止しようと決して容赦しなかった。
犬を散歩に連れてくる人さえもが
ナルの前を通ることを怖れていた。
ナルは自分に反抗的な犬が通る時刻を知悉していた。
毎日その時刻になると必ず玄関先で
その犬を待っていたのである。
近隣の動物たちにとっては最も恐るべき存在だったと思う。

さて、今日は初夏の陽気。
長袖では暑いくらいの一日だった。
ナルの「不在」を淋しがるミーとチコに
一日中付き合ってやった。

 春暑く花店朝の水うてり  西島麦南