ナルの思い出・?
ナルは実に人なつっこい猫だった。
見知らぬ人に撫でられても抱かれても
なされるがままに身を委ねていた。
その余りの「人間への信頼」を危ぶむほどだった。
「悪い奴もいるんだよ・・・。」
私は何度もナルに言い聞かせていた。
しかし、それは杞憂だった。
ナルは「危ない奴」と「優しい人」を本能的に見分けていたようだ。
ナルが人間に危害を加えられたことは一度たりともなかった。
ナルは同じ猫や他の動物に対しては
残酷なまでに厳しい猫だった。
縄張りに侵入する野良猫は完膚なきまでに痛めつけられた。
犬も蛇も蜥蜴も鳥たちも同じ。
ナルは我々が制止しようと決して容赦しなかった。
犬を散歩に連れてくる人さえもが
ナルの前を通ることを怖れていた。
ナルは自分に反抗的な犬が通る時刻を知悉していた。
毎日その時刻になると必ず玄関先で
その犬を待っていたのである。
近隣の動物たちにとっては最も恐るべき存在だったと思う。
さて、今日は初夏の陽気。
長袖では暑いくらいの一日だった。
ナルの「不在」を淋しがるミーとチコに
一日中付き合ってやった。
春暑く花店朝の水うてり 西島麦南