益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

死んだミーのこと

ミーは我が家に来た時から
いつ死んでもおかしくない猫だった。
腹から血を流し、どうも上手く歩けなさそうな捨仔猫。
玄関で瀕死の状態で鳴いていた。
拾うべきか否か、父も私も躊躇した。
五年前の今頃のことである。
「できるだけのことはしてやろう」
そんな父の言葉でミーは我が家の猫となった。

父は毎日義務のように、獣医へ通った。
心臓が異常に小さく弱いことがレントゲンで分かった。
後肢の不自由は骨格的な不都合ではなく
血行不良だということも。
ミーは前肢だけで後肢を引きずって歩いていたのである。
父は毎日義務のように、獣医へ通った。
点滴の毎日。
ミーがなんとか曲りなりにも四肢歩行できるようになったのは
それからふた月後である。

何度も諦めたミーの命だった。
よく五年間生きていてくれたものだと思う。
臆病で人見知りの激しい猫だった。
亡き父と私にしか
ミーは決して近寄らなかった。
身体の不自由な分、過剰な警戒心をもっていたのであろう。

ナルもミーも死んでしまった。
淋しいのであろう、
チコが仔猫に戻ったかのように
きのうからしきりに鳴いている。

 短命の猫を葬りし冷夏かな  田畑益弘