益弘 この一句

俳人 田畑益弘のきょうの「この一句」

田畑益弘きょうの自選句「益弘 この一句」

「無名」の桜

陽気に誘われて徘徊した。
祇園へ行かなくとも近所には
「無名」の桜が咲き誇っている。
我が家の在る双ヶ丘、法金剛院・・・。

夜桜は妖怪のようである。
闇の中で、幽かな夜の光を集めているその姿はあたかも
かの世への入口へと誘う道しるべのように見える。
名所の桜はライトアップされて大勢の花見客を集めているが、
私が今見ている桜は暗闇の中、花人は私一人だ。
淋しげでもあり、安らいでいるようでもあり、
これが素顔の桜ではないのか?と思える。

まなうらに夜桜の白さを焼き付けて帰ってきた。
それはまさに火傷のように
確かな残像として今も消えようとはしない。

 父母も吾も吉野桜もセピア色  田畑益弘