長き夜
静かな秋雨の降る夜である。
父が逝って早や二年半、
一人暮らしになって三度目の
まことに静かな夜長である。
雨音と虫の音だけ、サッシを閉めれば
己れがたてる音しか聞こえない家。
父がいた頃は早寝した父の大いびきが聞こえたものだ。
母がいた頃はテレビ好きの母が
深夜までテレビを点けていた。
そんな大いびきもテレビの音声も
五月蝿いながら一つの安心感であったように思う。
家族がいてその家族が音をたてること、
煩わしい時もあったが、
それが「暮らし」というものなのだろう。
三匹の「愛しの猫たち」の中で
一匹生き残ったチコが今、
か細い声で鳴いた。
その声は虫の音よりも美しく切なかった。
深秋や振り子時計の振り子音 田畑益弘